未払い残業代を請求されたら
企業の人事担当課長から、退職した従業員から未払い残業代の請求をされたと連絡があった。
担当課長は憤慨していた様子であったが、よくよく話をきいてみると元従業員に正当性があり、適切な請求っぽかったので、まず調査し、正当であれば支払いを行うよう案内した。
結局全額を支払ったようだ。
さてこの類の話は今後頻発する。未払い賃金回収は既に大きな市場になりつつある。
そして、悪意ある従業員と悪質な自称プロ(とよんでいいのか)が共謀し、とんでもない金額を請求するケースも増えると予想している。
ということで、従業員から未払い残業代を請求された場合はまず調査から始める。
言い分に正当性があるかどうかは客観性が無ければならない。上手に辞めさせることができなかった場合は元従業員を責めることなく、まず頭を冷やすことが必要だ。
さて主張の内容をよく精査し、対策を練る必要がある。りっぱな弁護士先生もプライドばかり高い失礼な人間が一部おり、本当に傷ついた従業員の怒りに油を注ぐようなことをする人間もいるのでお任せコースは危ない。
まず、未払い賃金には2つの大きなペナルティがある。
①付加金
裁判所で悪質と判断された場合は、本来の残業代と同額までで、「付加金」の支払いが命じられることがあること。(つまり、倍返しだ)
②遅延損害金
未払い賃金は在職中は「6%」、退職後は「14.6%」の遅延損害金がつくこと。
ダブルで倍以上となる。。
よって、強気に出すぎて裁判所に命じられてしまったり、長期化してしまうことは、本来支払うべきものであった場合は経営に大きな打撃を与えるため早期解決が必要だ。
かつて大手外食チェーンがノリノリでユニオン相手に戦っていたが、結局惨敗している。大衆の期待及ばず不名誉な賞を得ただけで経営陣はピンピンしているようだが。
さて労働の実態調査について調べる事あれこれ
①主張する労働時間は正しいか
②管理監督者(法41条)性はなかったか
③実態が残業に該当するか
④残業代の支払い実態との差額
⑤他主張を退けるに値する行為はなかったか
⑥時効の完成前であるか
以上は最低限調べなければならない。
①についてはタイムレコーダーの打刻だけでなく、PCの起動記録や他従業員の聞き取りもできるかぎり行う。タイムレコーダー記録だけを信用しすぎないことだ。
②は店長や課長などの役職名ではなく実態として『労務管理について経営者と一体的な立場にあるもので』、『職務内容、責任と権限があり』、『その地位にふさわしい待遇がなされていること』など、慎重に調査する必要がある。管理監督者性が認定されるようであれば、深夜を除く残業代の支払いは不要となる。
③の実態については、業務命令があったり、実質的な仕事量から残業が必要になる場合は当然残業となるが、残業を禁止しており、残業の必要性が無く、命令もなかった場合などは支払い義務がない場合がある。業務に関連しないことを行っていたり、喫煙時間は残業と認められず除外された例もある。
④は一部支払い済の場合だ。固定残業代を支払っている場合は超過分の支払い義務があるが、その差額をしっかり調査したい。
⑤は他の行為によって過失相殺を反論できるかどうかだ。但し、会社経営においてはほとんどが会社の責任となるため生半可な理屈では相殺の余地はない。
⑥は消滅時効だ。過去を遡って請求するにも2年までと規定されている。
このあたりまで調査が済めば、主張の正当性が分かる。正当性があればとっとと支払うべきだ。
このあと示談に持ち込み、減額をゴリゴリやる弁護士もいるが、残された従業員たちとも繋がっていることもあり、職場全体のモチベーションをゴリゴリ下げてしまうので注意して行う必要がある。
なぜ未払い請求されたのか。円満に退職させられなかったか。今の従業員たちも同様にソルジャーとなるのではないか。
とよく反省し、正しく経営をしていけばこんな無駄な労力を使うこともない。
全ては無知が生んだものであり、一旦請求されてしまったのならば誠実に対処すること。問題は既に全従業員に筒抜けであると理解し、問題と改善策を公表するなど今後に活かすことが賢い経営ではないだろうか。
そして、お悩みの際はお近くの都道府県社労士会へ相談ください。
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