働くことに思うこと

新大阪で起業した男の顚末まで

不動産会社の労働実態

 私は転勤関連のお手伝いをしていたことがあり、全国多数の賃貸不動産会社が今でも懇意にしてくれている。そのなかでも経営トップから一般職まで、時には新人まで話をする機会に恵まれている。言えば仲良しなのだが、今回は不動産会社の実態について、警鐘の意味も込めて記述したい。

 

 賃貸を主とした不動産仲介会社は、基本的な所定労働時間は朝の10時から夜7時までと求人している。よく知られているが水曜が所定休日だ。水曜が休みな理由は流れるモノを嫌う商性質から水を休みにしているジンクスと聞いたことがあるが、真偽の程もわからない。さて労働の実態はどうか。

 

(ここからは例であり、当然例外もあることをご承知いただきたい。)

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 朝は開店までに掃除、朝礼、会議、当日予定の報告、物件台帳の整理などを行う。がんばって30分くらいで終わらせたいが、会議が長い。体操を行っているレアな会社もある。ちなみに、始業前の準備は会社側が指示していなくても慣習等の黙示であれば労働時間と判定され、裁判となれば時間分の支払いが命じられることがある。

 

出社は開店時間の一時間前、実質9時からだ。 

 

夜は閉店時間までは必ず残らなければならない。つまり、『閉店以降の帰宅』が基本だ。閉店前に帰ることはまずない。仮に18時50分に来客があった場合は、応対が終わるまで帰ることはできない。夜のデートは遅刻ばかり。そして、閉店後は明日の準備、会議、ありがたいお説教。どんどん時間は過ぎてそろそろ20時で今日は早めに帰ろうか。今日は早く終わってラッキー。

 

 労働時間管理を適正に実施している会社は少ない。いまだに手書き出勤簿だけの会社もある。しかし営業マンは、出勤時間を打刻する方法など知らされていないため、会社の言いなりで自分以外の誰かが打刻(記入)していることもある。

 

さて、法定労働時間の上限をご存じだろうか。例示した不動産会社ならば、休憩を一時間とすると実質10時間労働となる。週一日の休日なので、一週なら60時間となる。

 

法定労働時間の上限は、『一日8時間』、『一週40時間』が基本だ。なお、特例として一週44時間まで働かせることができる業種(特例措置対象事業場)があるが、不動産仲介業は認められていない。(不動産管理業は認められる)

 

では即法違反となるか。少し基本をおさらいしたい。

 

 まず法定を超えて労働させる場合には労働基準法36条に定められた協定書(通称サブロク協定)を締結し労働基準監督署長に届け出る義務があり、法定労働時間の超過分は割増対象として平均賃金に25%以上を割増しして支払う義務がある。また、22時以降はさらに25%以上を上乗せし、最低でも1.5倍の割増賃金として支払い義務があるのはよく知られている。果たして適法に支払いを行っているか。

 

答えは、否ァだ。

 

夜遅くに駅前を通ると、まだ仕事している不動産会社の営業マンがいたりするが、ちょっといろいろ聞いてみたくなる。さてどのように法を逃れたつもりなのか。一例をあげてみたい。

 

①休憩時間を3時間

 休憩時間は労働から完全に開放された時間を言い、指示があればすぐ業務にとりかかれる待機時間は休憩時間と呼ばない。仮眠もケースによっては待機時間と判示されている。外に遊びにいくにはあまりに中途半端すぎる。現実的方法ではないし3時間も休憩いらない。

 

②固定(みなし)残業代の支給

 こちらは毎月決まった額を残業代として支払うテクニックで、実際に支払うべき残業代が下回る場合は法的に問題ないが、固定分を上回った場合は超過分の支払い義務がある。残業代算出の基礎となる平均賃金には一定の手当を除外できるため、額面は多くなるように見せ、残業代を低く算出できる方法として固定残業代は広く行われている。給与構造に知識のある人間ならセコイ会社だと気づくが、だいたいの会社員は給与計算が理解できないので文句も出ない。経営者の立場になればわかるが、わざわざ固定残業代を支給しているのに早く帰らせる心理は矛盾する。額面賃金を多く見せて求職者に訴求するには効果的だが、月給を時間給に置き換えて皆絶望する。もし有りもしない残業代をわざわざ払っている寛大な会社があるのなら基本給にしてしまえばよいだけで、給与計算の簡略効果も無い。多く支払った分を翌月以降に繰り越しして後の残業で相殺する方法も見かけたことがあるが、会社はいろいろ悪いことを思いつくなぁと感心する。何としてでも低賃金で長時間働かせたい気持ちは今昔普遍なのだ。社員を大切にしています(うそです)

 

③いやいや、フレックス

 フレックスタイム制に届出は必要ないが、柔軟な働き方は使用者の為ではない。労働者の為だ。例えばコアタイム(必ず出勤していなければならない時間)を11時から16時までと設定した場合、朝の会議などの理由で出社時間や帰宅時間をコアタイム外に強要することはできない。あくまでも実質上労働者にゆだねられている必要がある。朝晩の業務は異なるため不公平が出ないような工夫も必要だ。

 ちなみに、フレックスタイムの適法な運用は、労働者代表と協定等を締結する必要があり、労働者代表も厳密な定め(投票や挙手などによる民主的な方法で選出)があり、また就業規則への記載、細かい運用方法がそろっていないと認められないため、専門家の助言を得ながらルール化する必要がある。ちなみに、フレックスタイムの他にも変形労働時間制という実に使いづらい制度があるが、やっぱり利用の実態は極めて乏しい。不動産仲介業で変形労働時間制を採用している会社は聞いたことが無い。あったら授業料を払うので運用方法を教えてもらいたい。

 

④うちは業務委託やから

 業務委託契約を締結して働かせている会社もある。この場合も、契約書のタイトルではなく「実質的な使用従属性」があればただの労働者となり、労働基準法によって保護される対象となる。例えば時間や場所の拘束、指揮命令に諾否(イエスノー)の自由が無い場合など、主従関係が労働者と変わらない場合は委託契約では無く雇用契約と判定される可能性が高くなる。この方式を採用している会社はだいたい匂う。ずいぶん減ったが10年ほど前までは多かった。

 

⑤え?残業代ちゃんと払ってるよ。

 残業代さえきっちり払っていれば極端でない限りは直ちに行政処分されない。残業代も給料も払う。これが現実的ではないかとも思うが、法違反を指南すると私も社労士法違反で処分対象になるので決して良しとは言えない。もちろん長時間労働で監督署の指導はあり得るため、指導を無視して続ける事はリスクが大きい。ちなみに、監督署は月80時間超過の残業が疑われる事業所はもれなく臨検すると鼻息荒い|д゚)オーコワ

 

 かつて私も不動産業界に所属しており、そのころは朝8時から夜10時を週6日、実に週80時間以上元気いっぱいで働いていた。タイムカードも残業代もなかったので全額払い原則違反、最低賃金法に余裕で抵触し、36協定違反、もう山盛り法違反のオンパレードだった。無知とは恐ろしい。

 

経営者は言う。

 

「法律守ってたら仕事なんてできないよ。」

 

悲しい。守ろうとする努力すらしない開き直りだ。

 

守ろうと努力することは労働者に伝わり、もう少しがんばって働いてみよう。という気になるのに。少しずつでもマシな労働環境に変わっていくことが、不動産業者と業界の健全な発展に必要な条件だと思うので、私はそれでもめげずに仕事をする(不動産会社に嫌味を言う)。

 

 不動産は幅広く深い専門知識が必要で、一朝一夕で身につくものでは決してない。人生をかけて学び続けることのできる職種だと思っている。また膨大なカネが動き景気を上下する重要な役割を担っている。そのためには、転職したとしてもせめて業界から、

 

『不動産業が好き』

 

という逸な人材を流出させてはならないと真剣に思っている。

 

※自社はそんなことないと思った経営者の方は、当ブログを社内で回覧していただき、自社がいかに優れているかアピールするのもよいと思います。

 

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